スタッフの問題 第11回 ●

共同事業論


中小企業組合士 金澤智男

a)共同事業の花形は何か?

 協同組合と社団法人では共同事業の内容に差があるが、収益をもたらすものには、共同購買事業等があり、構成員への奉仕は、教育情報事業等がある。
 他の各種事業と比べた場合、この2事業が最大の事業であると思う。

イ)共同購買事業

 現在の経済状況は「規模のメリット」を共同購買で実現することは、困難である。生活協同組合よりも、一般のス−パ−の方が、安い商品が多く、生協は経営に苦しんでいる。現在、共同購買のメリットを生かすことは、一般的には難事である。
 しかし、メ−カ−系列の工事業団体を協同組合として編成し、組合員がそのメ−カ−の材料を使用して、工事を行うよう仕向け、メ−カ−から一定の共同購買手数料を組合が得る契約を結び、組合運営を図ることが可能である。
 全ウレ協は母体のMNU社とこの契約により、防水材1Kgについて8円の購買手数料を得た。設立当初は年間購買量は700トン程度であったが、設立15年後は約5,000トンに増加し、組合財政に大きく寄与するに至った。

 現在の不況下では、メ−カ−の負担が当初に比して多くなり過ぎ、手数料単価の見直しが進められているようである。

ロ)教育情報事業

 こうして得た資金を投じて、実施した諸事業で、長期的に見て、最も効果が発揮されたのは、教育情報事業だった。

 1)情報ネットワ−クの確立

 教育情報事業を推進するための情報ネットワ−クをどのように構築するかは、その団体によって、違いがある。ここでは、現在奉職中の日本ウレタン断熱協会(ウレ断協)の事例で説明する。

 (1)情報のインプット
 情報のインプットを定常的に受けられる方法として、建設業法第27条の33に定められている「建設業団体届」を平成7年11月に提出し、翌8年2月に受理された。協会は昭和62年に設立されていたが、前任者はこの届出を失念していたようだ。この受理により8年4月より、建設省から通達等の行政情報が自動的に得られるようになった。
 また専門工事業団体(全国団体に限る)の組織である「建設産業専門団体協議会」への加入が認められ、同団体と建設省との定例意見交換会を通じての行政情報が得られるようになった。

 第2には平成10年度より「全国中小企業団体中央会」の3号会員に加入が認められ、国の中小企業施策に関する行政情報と、補助金を受けることが出来るようになった。

 この他、建設業振興基金等からも情報が得られるようになっている。

 (2)情報のアウトプット
 情報のアウトプットにはアナログタイプ3種類と、デジタルタイプ2種類の合計5種類のシステムを確立した。

  ア)アナログタイプ
  a.会報(断熱)A3判4〜8ペ−ジ 年3回発行
  b.ウレ断協FAX速報 A4判1〜2ペ−ジ FAX一斉同報機能による 随時発信
  c.FAX情報BOX FAXのハ−ドデイスクに登録した、情報デ−タベ−スを会員が自己のFAXにより自由に取り出せるもの。

  イ)デジタルタイプ
  d.インタ−ネットホ−ムペ−ジ「断熱広場」
    http://www02.so-net.ne.jp/〜insulplz/
  e.電子メ−ルとそれによる「ウレ断協デジタル速報」
    insulplz@ra2.so-net.ne.jp

 2)各種研修事業

 このような媒体を経由する教育情報事業とは別に、「経営者研修会」「建設業後継者研修事業助成」「青年部研修事業助成」等を実施してきた。

   (1)経営者研修会
 全ウレ協とウレ断協では、全国中小企業団体中央会(中央会)の「連合会研修事業補助金」を得て、1泊2日の経営者研修会を開催した。
 全ウレ協で4回、ウレ断協では平成10年10月に第1回を実施した。全ウレ協時代では「充電の2日間」として好評であった。この事業が他の防水業団体を刺激して、各団体はこぞって「防水大学」等を企画するようになっている。

 (2)建設業後継者研修事業助成
 (財)建設業振興基金が実施しているこの事業に参加を希望する後継者に対して、全防協時代には、協会からその参加費(約12万円)の一部は補助した。当初は全額を補助したが、こうするとかえって自己都合で欠席する者があり、一部自己負担にした。
 ウレ断協でもこの補助制度を実施したいのであるが、財政上不可能である。将来は何とか実施出来るよう、考えている。

 (3)青年部研修事業助成
 全ウレ協時代に青年部(三青会)を設立し、青年部に親組合から、運営費を助成した。
 三青会は優れた若年層を発掘し、全ウレ協のマンネリ化を防止し、世代交代をスム−ズに行うことが出来た。
 ウレ断協にもいずれ青年部を組織するつもりである。


b)その他の共同事業について

 以上の2大共同事業よりは成果・重要性は少ない共同事業を述べる。

ハ)技能向上事業

 工事業団体として次に重要な事業が、技能検定等の技能向上事業である。
 全ウレ協と、ウレ断協でこの事業に協力してきた。
 この協力には受験窓口業務、実技試験実施、実技試験・学科試験対策講習会、合格者に対する通知と合格証書等の配付、試験委員・補佐員等の委嘱と連絡、実技試験用機材・設備等の準備、実技試験会場の設営等多岐にわたる業務が含まれる。
 全ウレ協時代は自分の所属する受験者を御世話するだけだったが、ウレ断協では、東日本協会の受験者の御世話と、全国各協会の連絡調整業務を手がけている。
 今後は、建設省が提唱している技能士と技術者の中間に位置する「基幹技能者」制度によって一部の1級技能士を向上させる「向上訓練制度」をスタ−トさせる予定である。

ニ)安全・環境対策事業

 最近重要性を増している、安全・環境対策事業に対しても、多くの力を割いている。
 特にプラスチック発泡体である、硬質ウレタンフォ−ム断熱材は、施工後の溶接・溶断の際、発生する火花が、先に吹き付けられた断熱層に着火して、火災を発生する事故が起きる。その防止のためには、断熱工事業だけの努力だけでなく、ゼネコンを始め、各工事担当者全員の協力が必要である。
 ウレ断協は関係工事業団体を始め、ウレタンフォ−ム工業会・ウレタン原料工業会の協力を得て、この対策に注力している。

 環境対策事業としては、廃棄物再利用(リサイクル)事業を推進し、再利用で出来た建設材料等の公共工事への優先利用を陳情している。
 今後さらに地球温暖化防止のための代替フロンの再代替等の問題解決のための、事業を推進することになろう。

ホ)福利厚生事業

 慶弔規程等による、お祝いや、弔意の仕事がある。また国等の公共機関から栄典を受けた方々に対する、祝意の表示の仕事がある。
 これらの他に全ウレ協時代には次のような特別の事業を実施した。

 1)組合員事業所優秀従業員表彰

 各組合員から表彰規程に該当する従業員の推薦を得て、3年毎の総会に招待し表彰した。
 当事者の勤務意欲を向上させるとともに、協同組合にたいする連帯意識を高める効果があった。

 2)都道府県優秀技能者表彰制度推薦

 いわゆる「卓越した技能者」制度に対し、協同組合から推薦を行い、受賞者を得た。私が在職中に北海道2宮城1東京4愛知1大阪1計9名が受賞された。その後もこの推薦制度は後任者によって続けられて、現在に至っている。

ヘ)構造改善事業その他

 中小企業近代化促進法など、中小企業団体にとって、基本的な構造改善ビジョン作成や、建設産業構造改善プログラム作成を手がけたことがなかった。
 これがこの論文を書くに当たって、告白しなければならない、この19年間の共同事業の唯一の減点部分である。言い訳になるが全ウレ協時代には、中央会の「活路開拓調査指導事業」補助金の対象団体になれなかった。全防協時代は防水工事業の経営実態調査は私が実施し、その報告書の作成まではしたが、退職して、ビジョン作成は後任者に委ねた。
 現在のウレ断協はまだ経営実態調査を推進する気運にすらない。急いで始めたいが、役員の同意を得るには、やや困難な事情がある。

 この他の共同事業は多岐にわたって実行したが、すでに「私のスタッフ経歴」の中の「団体遍歴」で述べた部分もあるので省略したい。

ト)陳情・建議等行政との折衝

 一方で建設産業の一翼を担い、他方中小企業団体としての立場からの陳情・建議等による業界の利益代表機関としての役割をどのように果たしているか、ご報告したい誘惑にかられるのであるが、時節柄省略することにする。


c)共同事業の注意事項

 共同事業を安定的に継続するには、幾つかの注意が必要である。これを列記することにする。

イ)資産の流動性を損なう、固定設備投資は慎重に行うこと。

   共同施設利用事業は、全国を区域とする全国団体の事業としては、馴染まない。また利用者のメンテナンスが不十分で、機械が故障してその修理費が団体財政に与える負担は計算外の膨大なものになる。

ロ)平均水準規模の構成員のニ−ズをタ−ゲットに共同事業を企画すること。

   会員(組合員)の企業規模には大小があり、団体に対する要求も様々である。団体はそれらのニ−ズのうち、平均水準規模の構成員の要望を満たすような、共同事業を選択することが、必要である。

ハ)「継続は力なり」

 そして一旦実施した共同事業は長く継続するよう努力しなければならない。
 その団体のオリジナリテイとして、内部からも外部からも評価される時まで、継続する必要がある。
 そして廃止する場合は、フエ−ドアウト式に徐々に消えていく方法をとることが望ましい。突然にスッパリ止めるのは、反動が起きて、混乱するので、良くない。

 以上で「共同事業論」を終える。最後になるが、組織運営も共同事業の実施も、スタッフの健康があってのことである。スタッフ諸君のご健勝を祈る次第である。

 次回は結論を述べる予定である。

 
(次号へつづく)