a)建設業の危機とその克服
日本はGDPに対する建設投資額の比率が、西欧諸国に対して、極めて高いのが特徴である。これは日本の公共投資が国家財政に対し、極めて高いことによっている。
このように日本の建設業は恵まれた環境にあった。今までは。
そのような状況が今後は期待出来ないことは、明白である。
すでに世論はこのような公共投資による、経済政策を批判しているし、財政状況はこれを許せない。
従って、日本の建設業は、規模を縮小することで、存続を図らなければならない。
私が所属する専門工事業はその影響を受け、倒産・転廃業が相継いでいる。
これらの状況を克服するには、個別企業の経営努力が最も重要であるが、業界団体の共同事業による、構造改善・近代化も必要ではないかと思う。
ここに業界団体のスタッフの任務と存在意義がある。
b)スタッフの存在
サルトルの知識人論で述べたように、スタッフは矛盾した二律背反を内在する存在である。その一つは実存的存在である。
イ)実存的存在
スタッフは団体の限定された、資源(時間・人間・金)を使って、最も効果的な事業を「あれか、これか」と選択して実行しなければならない。一方では多様化した共同事業のメリットを求めて「あれも、これも」とする構成員の「まなざし」に囲まれている、対他であり、且つ対自である、実存的存在なのである。
ロ)弁証法的存在
しかもスタッフはテクノクラ−トとしてあらねばならない。即ちその業界の知識の倉庫・図書室・生きたデ−タ−ベ−スであり、中小企業施策や建設行政の受皿でもある、集団の実務者であらねばならない。且つ又、施工技術知識や法律知識によって、コンサルタントとしてその構成員すべてから信頼される相談相手として。
テクノクラシイは弁証法である。スタッフの皆さんは実存的・弁証法的二律背反を生きながらに示す哲学的人格そのものである。素晴らしい存在なのである。
c)スタッフの世代交代
スタッフも人間である。老いて世代交代をすべき時期が来る。後継者の選択に際して考慮すべき点がある。
それは、スタッフの交代は事務系出身と技術系出身が、交互に行われることが望ましいということである。
その業界の発展には、事務系のスタッフによる発展と、技術系のスタッフによる発展がある。団体の規模が大きくて、双方のスタッフを雇用できる場合はよいが、これが出来ない団体は、交代してやるより他に方法がないと思う。
d)21世紀におけるスタッフの地位
多様化する社会・細分化する企業・多層化する個人の意識・ますます重要になる環境問題・国家の枠組みを超える民族、宗教関係など、21世紀は20世紀とは全く異なった時代になると予測される。
この時代を担うスタッフの地位は、従来よりも重要性を高めることが予想される。
だが権力側は、スタッフの地位の向上を制限するように動くことであろう。
なぜなら常にラインとしては、スタッフを部下としてその存在を抑制した地位に置くことが望ましいからである。
従ってスタッフは、彼らラインの攻撃をうけないよう注意して、生きなければならない。
e)パスカルの警告
その注意をパスカルは「パンセ」の中で言っている。
「それは力の結果であって、習慣のそれではない。なぜなら、創始することの可能な人々は少数であって、大多数は追従しようとするのみであり、しかも自己の創意によって追求するこれらの創始者達に栄誉を与えることを拒むからである。そこで、もし創始者達が執拗に栄誉を得ようとして、創始しない人々を軽蔑すれば、後者は前者に嘲笑的な名を着せるであろうし、前者を杖で打ちかねないであろう。ゆえに、そのような利発は自慢しないか、それとも自分独りで悦に入るかしている方がよい。」と。
このパスカルの警告はスタッフの方々に、私の自戒を込めてお贈りする言葉である。
f)結論=スタッフの擁護
このシリ−ズを終わるに当たって、スタッフの方々に勇気と希望を持続し、所属団体とその業界の発展に益々ご活躍されるよう、お願いしたい。
皆さんは哲学的存在であり、創始者であり、21世紀を担う黒衣である。
g)謝辞
多くの方々に謝辞を申し上げなければならない。名前を一々挙げないが、1980年から19年間、スタッフとして働いた日々に御世話になった多くの方々に改めて感謝申し上げ、このシリ−ズを終わります。皆さんありがとうございました。
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