スタッフの問題 第6回 ●

私のスタッフ経歴(1)


中小企業組合士 金澤智男

a)テクノクラートとしての技術力の習得

 現代の中小企業業界団体事務局が、実務上必要とされる事務的ノーハウは(1)中小企業の施策に関する知識(2)中小企業団体運営・管理に関する知識(3)複式簿記特に協同組合会計基準・公益法人会計基準に基づく会計処理能力(4)ワープロ(5)パソコンによる表計算・データーベースのプログラム作成能力等である。
 むろん勤務する業界内部の実体を解析し、問題点を把握し、長期展望を立案する能力が前提である。
 一般的にはこれらの能力を全て兼ね備えた事務局員を求めることは困難で、数人が分担して事務局を構成している。
 しかし経済的理由で、人件費を抑制される場合は、出来るかぎり少ない人員でこれらの機能を満足させる必要がある。
 企業の営業部門しか経験のない私が、どのようにしてテクノクラートとしての技術力を短期間に習得したかを説明しようと思う。

イ)中小企業組合士資格

 昭和55年5月に「全日本ウレタン工事業協同組合」設立して2年後、出向元のN社はJVを解消することを決定し、N社からJVに出向している社員を、親会社に復帰させた。ただ一人を除いて。その一人は私であった。
 それまでJVで建材営業部長と、協同組合事務局を兼務していた私は、一度親会社に復帰し、即日N社の子会社である某建材販売会社に出向し、さらに協同組合に再出向するという複雑な手続きで、事務局専従者になった。
 それまでのJVという傘のもとに保護されていた私は親会社から見離され、自己責任でこの協同組合に専念することが求められた。
 (いずれ最終回で当時の関係者各位に謝辞を述べる予定であるが、ここで私をN社に回収しないことを主張されたN社のY・K氏に対しても感謝したい。両氏の御陰で今日もこうして業界のための奉仕をさせて頂いている。両氏の先見の明に敬意を表したい。)
 そこで今までとは数段もの決意で運営を行うことになった。
 始めに手を付けたのは、上記の(1)(2)(3)の習得であった。これらを一括して習得する手段として、当時全国中小企業中央会と都道府県中小企業団体中央会が実施していた「中小企業組合士」資格取得のための講習会に出席し、終了後には検定試験を受験した。
 この制度の目的は、中小企業組合の役職員等を対象にして、組合の職務の遂行及び指導に必要な知識に関する試験を行い、試験に合格した者の中から、一定の実務経験を有する者に対して、「中小企業組合士」の称号を与えることにより、組合の役職員等の資質の向上を図り、もって組合の健全な発展に資することである。
 試験科目は(1)組合制度(2)組合運営(3)組合会計の3科目であり、それぞれ数項目とその細目が定められている。合格科目が一部に止まった場合は3年間合格科目の試験が免除される。
 合格者は組合の実務経験が3年以上あれば、「中小企業組合士」に認定される。
 この資格は3年毎に、補習講義等の出席を条件とする認定更新を必要とし、一度認定されれば、生涯有効な他の資格とは異なっている。
 この制度は昭和44年に、東京都中小企業中央会が創設し、その後全国中小企業中央会に移管され今日に至った制度である。先般創設25周年記念行事が行われたが、この25年間の登録組合士総数は僅か3329名に過ぎない。これは、組合会計の試験問題が一部に日商簿記試験の2級程度を含む難関であるため、途中で受験を放棄する受験者が多いことと、この資格取得のメリットがあまり少ないためと思われる。
 しかし後で述べるように、この難関を突破したことが、私が69才の今日まで、中小企業団体に奉職可能な要因と考えており、この資格取得はよかったと思う。
 受験する前には、受験対策の講習会を受けることが出来る。東京都中小企業中央会で3科目の講習会が夜6時から8時15分まで、月・水・金の週3回あった。銀座松屋裏の東京都中小企業会館9階の会議室で、大学夜間部卒業以来約25年ぶりの夜学だった。
 昼間の実務を終えてから、急いで教室に向かい、帰宅すると、10時を過ぎたが、まだ若かった(といっても50過ぎではあったが)のでそんなには苦痛に感じなかった。
 銀座4丁目のパン屋木村家前に浮浪者が集まって、パンの売れ残りを漁っているのを見て帰宅した。
 全講習が終了した日には、受講生に中央会から、中村屋のカステラを頂いた。教えてもらって、御褒美が頂けて、こんなに待遇のいい講習会はないと思った。
 組合制度と組合管理の2科目は、初回で合格したが、組合会計は決算処理と税務が難しく、2回目にやっと合格した。(3回目だったかもしれない。)
 こうして昭和58年度で合格し、昭和59年6月1日に「中小企業組合士」の認定を得た。
 その後「東京都中小企業組合士協会」に加入した。
 この協会は組合士の資格者の教育訓練を積極的に実施して、資格者の資質の向上に努めている。毎年各種の講習会・見学会・資料配付等により、資格が名目化することを防止している。
 残念なことは、防水工事業協同組合の事務局で、私に続く、組合士が現れないことである。このシリ−ズを読んだ防水工事業協同組合の事務局の方々にこの資格取得をお薦めしたい。
 私は今年6月19日全国中小企業組合士協会連合会より、「優良組合士」として表彰された。この栄誉を感謝し、益々スタッフとして、業界発展に尽力する覚悟であります。
 この資格証は写真入りで、官公庁に出入りする時、身分証明書として、役立っている。
 この他の資格としては
 2級建築施工管理技士(仕上げ)昭和61年3月25日
 建設業経理事務士(3級)   昭和63年10月28日
 があるが、一番役に立った資格はこの「中小企業組合士」である。

ロ)複式簿記

 そのころ、奉職していた「全日本ウレタン工事業協同組合」(以下「全ウレ協」と略称する)では税理士に月次決算業務を委託していた。事情があり、この委託を解消することになり、私は、M社の管理部門におられたN氏の指導により、パソコンを使用した、会計業務を行うことになった。
 現金出納帳、銀行勘定簿から仕訳伝票を起こし、これを元帳に転記し、月計額をパソコンに入力し、月次試算表を作成した。
 仕訳伝票は複写式を用い、借方・貸方別に元帳の勘定科目別にファイルし、月計を出した。これをパソコンに入力するのである。
 パソコンはM社から富士通のものを無償で借りた。ソフトはエポカルクという汎用表計算ソフトだった。このパソコンの習得のスタ−トに汎用の表計算ソフトを使ったことが、将来業務用のオフコンに頼らずに自分で会計プログラムを作って利用出来る素地となった。
(従って現在問題となっている所謂2000年問題に影響されないでいる。)
 全ウレ協では本部と4支部と青年部の6会計単位の連結会計をM社のN氏の指導を受けて行った。その過程で始めは判らないことばかりで、N氏にご迷惑をお掛けしたが、次第に興味が沸き、講習会に参加したり、パソコン雑誌を読んだりして、複式簿記をパソコンで行うことが出来るようになった。
 協同組合会計基準を習得したころ、後で述べるように、全ウレ協を退職し、全国防水工事業団体連合会の社団法人化の準備委員会に奉職することになり、「公益法人会計基準」による会計処理も学んだ。そして最後に「建設業経理事務士」資格を取るため「建設業会計」を学んだ。
 全防協では本部・9支部の連結会計をロータス123を使って行い、また連結事業費会計の支払い勘定別明細処理をロータス123の「串刺し計算」機能を使って行った。これらの詳細は次回に述べる予定である。

ハ)ワープロ

 ワープロは全ウレ協の事務局のあったM社のウレタン事業部で富士通のオアシスが最初だった。親指変換でなくJISのローマ字カナ漢字変換を練習した。業務上の文書作成が出来るようになると、自宅でもほしくなり、OASIS30を購入した。これでそれまで業界雑誌に掲載された随筆を入力し、自費出版をした。「土露子断章」という。この出版費と出版記念パーテイのお礼とOASISの購入費で約100万円を使った。がこの時は妻は何も言わなかった。
 その後、社団法人全国防水工事業協会(以下「全防協」という)が発足すると、そこにあったリポート(リコー)を使用することになり、全防協がパソコンを導入してから「一太郎」を使用することになった。こうして現在は「一太郎」「リポート」「オアシス」の3種類のワープロを使用している。
 (この「スタッフの問題」は自宅のオアシスで書いている。)
 勤務先では一太郎を利用することが多くなっている。それは第1には、ワープロ専用機のハードデスクのメモリー量が少なく、文書の保存に限界があること。第2にはパソコンワープロで作成した文書を、印刷して利用すると同時に、インターネットのホームページに掲載したり、印刷所にE−メールで送信し印刷等に利用するには、ワープロよりもパソコンワープロの方が便利だからである。
 漢字変換の善し悪しを批評すると、「リポート」は「一太郎」「オアシス」よりも劣り「あまり利口」ではないと思う。リコー社は中小企業に使いやすい「リース」による営業に優れているが「リポート」はH社のOEM商品らしく、改良が後れている。例えば一太郎やオアシスだと、一度変換を確定すると、二度目はその確定した漢字が最初に出てくる機能があるが、リポートはこの機能がなく、いつも機械が設定した順番で漢字が行列して変換される。学習能力が低い。
 そして一太郎を利用し、マイクロソフト社のワードを利用しないのは、日本語ワープロソフトだけは、どうしても日本の会社に続けてもらいたいからだ。
 ジャストシステム社に頑張って頂きたい。

 次回はパソコンの表計算・データベースとインターネットについての習得経験を述べる予定である。

 
(次号へつづく)