スタッフ論の目的.動機.記述の概要
中小企業組合士 金澤智男 |
スタッフ受難の時代
現在のわが国の企業・社会・国家の状況は、正に危機的状況にある。その問題の根源を
探ると、そこに、スタッフと定義されることが出来る、階層・階級・組織・職分に属する
人々がこれらの危機を起こし、拡大し、処理しようともがき苦しんでいる姿が見える。
一例を挙げれば、かの「総会屋」に対する利益供与によって、企業が法的訴追を受け、
その企業の経営者がテレビで頭を下げる光景を、何度も見ているが、その利益供与を始め
に行ったのは、その企業の総務部門であった。
総務部門は株主総会の運営が円滑に短時間に終了することをラインの長である、経営者
に求められ、止むなく、暗い組織と取引を行い、罪を負うことになった。
また、国政は国務大臣による、閣議で政策が決定されるが、閣議前日に開かれる各省次
官会議で、既に決定された政策を、国務大臣が追認しているのが、現実である。ラインで
ある政治を陰で支える、スタッフとしての官僚が、国政を支配している。その政策が成功
した場合は、政治家に評価が与えられ、失敗した場合は、官僚が責任を問われている。
住専に対する不良債権問題に発した、金融システムの危機は、官僚である、大蔵省と金
融機関の癒着問題と、処理対策としての「公的資金」の投入の可否問題に及んでいる。始
めは千億円単位の、国費を投入すれば、何とかなりそうな事件が、次第に拡大して、今や
30兆円の国費の投入が必要と言われる規模に拡大した。
最近では金融機関が抱えている不良債権は総額78兆円になる模様である。大蔵省は金
融機関に対する、監督責任と、情報開示を遅らせた責任を問われている。大蔵省は金融機
関をコントロールすることで、貨幣の流通量を調整し、日本の経済システムを安定的に成
長させるスタッフとしての立場にあったが、銀行が企業に融資する個々の案件には、責任
もコントロールする立場にはない。それらはすべて、個々の銀行の審査部門の責任と判断
に依存している。しかし事態が金融システムの危機となると、大蔵省に責任が転嫁される
のである。
国政を司るべきラインの政治家に指導性がなく、陰で政治家を支えるスタッフの官僚に
力が集中した結果、わが国の国政は官僚の支配下にある。官僚の腐敗も、独裁もその結果
に過ぎない。これは、スタッフである官僚の受難である。
今日のわが国はスタッフ受難の時代であると規定出来る。
わがスタッフ時代
1980年(昭和55年)5月19日「全日本ウレタン工事業協同組合」の設立総会が
熱海市のアタミ・ニューフジヤホテルに於いて開催された。私は多くの同志と御来賓の前
で、総会の司会者を担当していた。爾来18年間工事業団体の事務局員として過ごした。
この間業界団体の「スタッフ」の任務を遂行したが、その任務を通じて「スタッフ」と
は何か、「スタッフ」の存在とはどんな存在か、「スタッフ」は何をなすべきか、を自問
して来た。
今日程、スタッフが注目され、問題にされている時はない。スタッフの存在と、これに
係わる集団・社会・国家の関係を分析し、問題を解明したい。
スタッフ論を取り上げる動機
誰でも自己の職業に対する誇りと、存在意義を持っている。これを否定されれば、反論
する。
評論家山本夏彦氏は、著書で「業界団体の事務局員程、主体性のない、奴隷的根性の人
間はいない。業界団体事務局は男子一生の仕事ではない。」と言っている。彼は或る業界
団体にその業界情報を求めに行き、断られた体験から、こう書いた。
私どもは、今や情報公開を積極的に実施している。何れこのシリーズで紹介するつもり
であるが、団体の内容の全ては、インターネットホームページで公開され、誰もがそこか
ら、情報を引き出すことが出来るようになっている。
スタッフは今や彼が考えるような、消極的、閉鎖的意識のものでないことを示したい。
第二は、私が自己の晩年を公共奉仕に携わり、有意義に過ごすことが出来たのはこのよ
うな職務を私に与えて下さった、工事業の皆さんの御陰であると感謝している。
その御恩返しに、スタッフとしての体験をご報告する義務がある、と思う。そして後輩
各位に私の体験が少しでもお役に立てば、と考えたためでもある。
第三には、以前に自費出版した、「土露子断章」の中の「年代史的人生論」に「熟年時
代」で述べた私の決意を、どのように実行したか、「土露子断章」の読者各位にご報告す
る義務がある、と思っている。
そして今このレポートを出す理由は、私の老いが進み、健康に自信が持てなくなって来
たためである。昨年来両脚膝部の「変形性骨膜炎」で苦しんでいる。まだ道のりは残って
いるが、肉体と精神の衰える前に、このあたりで「サミング アップ」しておいた方が良
いのではないかと、考えている。
記述の概要・スケジュール
1)スタッフ論の目的・動機・記述の概要(今回) 98年5月号
2)スタッフの史的分析 6月号
a)参謀の研究
イ)陸軍参謀本部 スタッフの独断専行 情報と兵站の軽視
ロ)海軍軍令部 陸軍に引きずられた決断力不足 暗号の管理
b)サルトルの知識人論 7月号
(1980年5月19日はサルトルの告別式の日でもあった。)
「実践的知識の技術者」としての知識人論を、スタッフの問題の解明に借用する。
c)現代日本のスタッフの典型
イ)「古典的」スタッフ(体制側スタッフ)例 瀬島龍三
戦後行政の各種審議会で活躍する、元陸軍参謀
ロ)「新しい」スタッフ(反体制側スタッフ)例 家永三郎
教科書検定制度に抵抗し、司法に判断を求め、時間を浪費し、失敗した。
ハ)体制側と反体制側の共生を試みたスタッフ(サルトルが規定しなかった、真
のスタッフ)例 隅谷三喜男
成田問題の調査団長として、空港側と農民側の共生を図った。
3)私のスタッフ経歴 8月号
a)テクノクラートとしての技術力の習得
イ)中小企業組合士資格
ロ)ワープロ
ハ)複式簿記(協同組合会計・公益法人会計・建設業会計)
ニ)パソコンによる表計算・データーベース
b)団体遍歴
イ)全日本ウレタン工事業協同組合 陸軍型で運営
ロ)社団法人 全国防水工事業協会 黒衣(クロゴ)に徹した
ハ)日本ウレタン断熱協会 海軍型で運営を試みている
4)組織運営論 9月号
イ)成文規範 ニ)調査・統計
ロ)会計システム ホ)世代別奉仕
ハ)役員組織
5)共同事業論 10月号
イ)教育情報 ニ)共同受注 ト)安全
ロ)技能向上 ホ)共同宣伝(情報公開) チ)環境
ハ)共同購買 ヘ)福利厚生(栄典推薦) リ)構造改善
6)建設業の危機とその克服 11月号
7)結論=スタッフの存在
イ)実存的存在
ロ)弁証法的存在
ハ)21世紀におけるスタッフの地位
ニ)結論=スタッフの擁護
8)謝辞
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なおこのスケジュールは一応の予定であり、執筆が進むにつれて、変更される場合も
あり得ることをお含み願いたい。
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